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「競輪選手松井秀幸」 power×松井秀幸氏

みなさんお元気ですか。
本日は松井秀幸氏とのインタヴューをお送りいたします。
氏は京都大学より競輪選手になったという、異例の経歴をお持ちであり、各種メディアにも再三取り上げられていらっしゃったので、ご存知の方も多いかと思います。
京大から競輪へと進んだ理由は、そしてプロの競輪選手の視点は、など、松井氏の心の内をマリアナ海溝より深く、そしてパンターニの山岳アタックより鋭く突っ込み、皆様に公開したいと思います。
また、始めにお伝えしておくと氏はpowerの同級生であり、同じ自転車競技部で共に走った仲間です。



power
「今日はどうぞよろしく。まず経歴と自己紹介を簡単にお願いできますか。」
松井
「よろしく。経歴といっても大学まではごく普通です。今も普通ですが…。」
power
「全然普通では無いです。」
松井
「一応、昭和51年3月31日名古屋市生まれで、中学校から実家の滋賀県滋賀郡に引越し、高校は県立膳所高校、そして京都大学に入学して自転車部に入り、power氏に出会った訳であります。大学院に進学した年に競輪学校を受験して翌年プロ デビュー、大学院は2年間休学して今年復学、4年目の現在は修士過程終了が当面の目標であります。」
power
「このように聞けば、とどまることなくアグレッシブに色々と挑戦しておら れるようですね。」
松井
「そんなことは無いですよ。」
power
「いやいや、ボケっとせずに何かをしているのが松井君だと認識しておりま す。学生のときにも放射線技師の免許を取得しておられましたね。それを生かして、原子力でペダルを踏めるかの実験にご執心だったとか。」
松井
「いいえ。正確には、”第1種放射線取り扱い主任者免状”なるややこしいものだよ。」
power
「プロになったのは放射能、それもβ崩壊によるものだったとか。」
松井
「いいえ。α崩壊やねん。」
power
「では早速自転車についてお聞きして行きましょう。自転車に乗り始めたのはいつですか」
松井
「たぶん幼稚園のときであります。」
power
「私は幼稚園に行っていません。」
松井
「あ、ここで自転車と言ったら”自転車”でやんすね。分かってたけど。えー、自転車に初めて乗ったのは高校3年生の春休み、大学合格祝いに買ってもらった5万円の ロードレーサーもどきで、レーダックという、たまに小金持ちの女の子がママチ ャリにしてるやつであります。で実家から大津や京都に出かけておりました。」
power
「ドロップハンドルには慣れていた、と理解していいでしょうか。小金持ち の女の子はそんなこと絶対にしないと思います。滋賀県ではありうるのですか? おおっと!話題が危なくなってきましたので、切り替えましょう。大学で自転車部に入部したきっかけは何ですか。」
松井
「それは新入生健康診断の日に、たまたま自転車競技部に勧誘されたからであります。」
power
「自転車競技部の勧誘は、拉致と呼ぶのがふさわしいやつですね。」
松井
「…はい、初めはこんなしんどそうな部に入ったら、勉強に差し支えがあり そうで困ったなぁ、などと真剣に思っていたものであります。実際、 1・2年生の頃は大して練習もしてなくて、山はおろか、平地でもpower氏に勝てなかった次第でして…。」
power
「今でも勝てないでしょう。」
松井
「あり得ますね。」
power
「…ありがとうございました。さて、なぜ競輪をやろうと思ったのでしょう?それはいつですか」
松井
「それは、大学院修士一年の夏でした。滋賀県の国体合宿でフライング1kmTTを計ったところ、1分03秒が出たから!?これはプロ試験も行けそうだということになりまして…。ちょうど受験の締め切りの直前でした。ま、なるかならないかは、受かってから決めようと…。そして競輪学校に入学するまでに練習を積んでいくうち に、プロになる決心がしだいに固まっていったという次第です。」
power
「私からすれば、海外旅行に行って帰って来て早々の鴨川での飲み会で、夜も更けた頃、友人に耳元で「松井、競輪試験受けてるらしいで」とささやかれて32メートルほど飛び上がったのを思い出します。あの日のことを覚えていますか?」
松井
「忘れました。」
power
「ではそれなら、競輪とロードレースを比較してください。」
松井
「競輪は、試合はしんどくないけど練習はきつい。ロードレースは、練習は楽しいけど試合はきつい。」
power
「なるほど。興味深いです。競輪とロード、どちらが好きですか?」
松井
「皆さんは、ステーキとケーキ、どちらが好きですか?」
power
「ふむ。面白い例えです。一本取られました。私はと言えば桃が大好きです。では競輪学校のことについて教えて頂きたいと思います。受験する時には緊張しましたか?」
松井
「ええ、もう2度と受けたくないです。」
power
「相当したみたいですね。さて、無事に合格された後に待ち受けている伊豆、修善寺の競輪学校。大変に厳しいものだと小耳に挟んでおりますが、どのような生活か、簡単に説明してください」
松井
「まぁ、簡単にいうと戦前の海軍兵学校のような感じらしいです。伊豆修善寺町の山の中にあり、期間は1年。敷地の外へ出られるのは日曜日だけで、その週の課業にすべて出席し学業成績・独走タイムの基準に達している者に限られる、という、いはば監獄であります。」

飲み終わったコーヒーカップで遊ぶpowerと松井氏


power
「坊主頭の男に囲まれた山の中の生活が青春の1ページとしてはステキですね。」
松井
「自分も坊主頭やったんちゃうん!!」
power
「はい、そんなこともありました。さて、エピソードなんですが、競輪学校の先生が理不尽だったときに、抗議したとか?」
松井
「競輪学校名物の”竹刀”(竹刀でお尻を思いきり叩く=オニ痛←ビンタよりはるかに痛い)については何も言いませんでしたが、生徒に対して一方的な理由でパンチ・ビンタをしている教官がいたので、法律を守らないと然るべき措置をとると進言いたしたのでござる。」
power
「もう少し詳しくお願いできませんか?」
松井
「本当に教育的観点から必要なときもないとはいいませんが、教官も人間なので、主観的な理由・間違った理由で体罰を加えることもある訳です。もしそうだったと後で判っても、間違いを認めて謝ることなど無いのは当然、教官と生徒とは立場が違いすぎて大半は泣き寝入りといった状況でした。
 あまりにひどいときも多々見うけられ、教官との間がギクシャクするのを承知で表立っていう生徒は他にいなかったので、どうしても見るに見かねて、改善されなければ”然るべき措置をとる”と言った訳です。法律云々というのは二次的な話で、””弱いもの虐めは許せない!!””といった感情で、大半の生徒の代弁をしただけです。
 法的手段は生徒側に許される唯一の手段(口答え・反抗は退学・時期送りになりうる)でした。競輪界の不祥事になるので、実際に訴える気はほとんどありませんでしたが…。」
power
「なるほど。」
松井
「あそこで見て見ぬ振りをするのは、人間的にどうしても許せませんでした。表立って言う生徒はいませんでしたが、大多数の同期生は影で応援してくれていました。学校側も意見が割れましたが、結局、パンチ・ビンタは禁止になりました。」
power
「それは全く爽やかで素晴らしいことだと思います。バチグンのクールさですね。それにしても、他の生徒は、いや、今までの全ての卒業生はその理不尽な制度に迎合してきていたわけですね。」
松井
「そうですね。やはり時代の変遷ですかね。でも、今後ライバルになりうる下期生は改善された競輪学校で練習に励むのかと思うと少し複雑であります。」
power
「競輪の世界は、男の世界だと思いますが、簡単に言うとどんなものですか?」
松井
「話のネタには、競輪に次いで下ネタが多い世界であります。」
power
「そんな中、松井君はメルトダウンをどうすれば回避できるかについてひたすら熱く語り、競輪選手の中でサブイ思いをするのはどうでしょう。さて、この不況の中、競輪自体も不況。地方自治体に支えられている競輪選手が給料をもらいすぎだとの批判はあると思いますが、それについてはどう思いますか?」
松井
「30歳頃をピークに年をとるにつれて収入が減るわけですから、単純に若い ときの収入を比べたらいかんです。あまり収入が低いと八百長をする選手がでてくる懸念もあるかもしれません。確かに収入に関してはプロ野球よりいいですが、不当に世間の評価が低いと思いませんか?」
power
「プロ野球も貰いすぎですからね。どれくらいの年齢まで選手として立っていられるのでしょう」
松井
「たまに50歳を超える選手を見かけます。平均40歳らしいです。」
power
「ロードと比較して、かなり寿命は長いわけですね。」
松井
「そうですよね。」
power
「競輪の目標は何かありますか?」
松井
「SC E+100(エスキュウカケルジュウノヒャクジョウ)!」
power
「なんのことやら意味不明な回答、ありがとうございました。さて、今現在は大学院で修士の学位を取ろうとされているそうですね。大学の学問と競輪選手の立場を両立するのは、難しいですか?」
松井
「時間的には簡単です。精神的には難しいです。二兎を追って捕まえるのは簡単やけど、二兎とも食べるのは難しいと思うわけです。」
power
「おお!普通の人は二兎を追うので精一杯なのです。それよりも捕まえて食べる、まで睨むのが松井君のスーパーなところだと私は思うわけです。」
power
「松井君は注目の新人類、などとメディアに取り上げられて来ていますが、気分的にはどうでしょうか?」
松井
「(しばし無言)・・・・有名とかは意識しないです。もちろん取り上げて貰うのは嬉しいですが、同時に生じてくる責任とプレッシャーがあります。自己満足では終われないわけですよ。」
power
「それは自己満足の得意な松井君には辛いところですね。それでは、基本的なところに立ち返りたいと思います。自転車は面白いですか?」
松井
「何をやっていてもそうだと思うのですが、上達している、強くなっているとの実感があると面白いんですよね。学生の時は、練習したらその分だけ強くなり、結果がついてきたので楽しかったです。」
power
「今は伸び悩むことがある、ということですか。」
松井
「ありますね。そんなときは楽しくないですよ。練習に仕方なく出かけていることもあります。」
power
「プロであるが故の苦悩でしょうか。その辺りがアマチュアとプロの違いなんでしょう。以前インタビューしたシマノの今西選手も同じようなことをおっしゃっていました。努力、それ自体は楽しいものではないでしょう。」
松井
「そうですよね。けれども、走りに行くのが楽しくないのは実際、困りものです。しかし、だらだらと乗ってしまうのがあるのは確かなので、乗るときは乗る、乗らないときは乗らない、とけじめをつけて行きつつ付き合っていきたいと思います。」
power
「なかなか難しそうですね。となると自転車は楽しい!と思っている私にはプロ意識が無いことになりますね。」
松井
「たまに乗ると、楽しいんですけど。」
power
「そうですか。また久しぶりに走りに行きたいです。で、楽しいと来れば、『そうだ!やっぱり競輪!』だと思うのですが、どうですか?」
松井
「それは競艇のCMです。」
power
「植木さん!」
松井
「それは競艇のCM。」
power
「さて競輪はバンクを回る競技。私もポイントレースなど、バンクを走ったことは当然何度もあるわけですが、ぐるぐる回ることは楽しいでしょうか。」
松井
「楽しいわけでは無いですね。調子がいいと楽しいですが。」
power
「バンクを回っていて目が回りませんか?」
松井
「スプリント競技のゴール後、目が回って金網にぶつかった選手を記憶しています。」
power
「本当にそんなことがあるんですねー。緊張はどうですか?周回の時はどうでしょう。見ている側はあの緊張感がたまらないのですが。」
松井
「周回の時は集中しているんですよ。全然緊張しないんです。むしろ、レース前の控え室の方が緊張しています。」
power
「競輪の格好はどう見てももっさいと思うのですが、それについてはどう考えますか?」
松井
「レースをしている選手たちは”イモ虫の集団”?に見える、というムキもおられるかと思いますが、実はあのイモ虫ルックが競輪の醍醐味のひとつ!、というムキもきっといるのであります。それも4月からユニフォームが大幅に変更されて変わってしまうのであります。請うご期待!」
power
「そうなんですか。それは数学的に表現すれば、期待値=2002ですね!」
松井
「全くです。」
power
「これから先の競輪はどうなると思いますか?」
松井
「売上の低迷から競輪業界もあまり明るい見通しもないのですが、規模は縮小されても、あいかわらず選手たちはバンクをぐるぐる回っていることでしょう!」
power
「ほほう!今の発言はπ電子のスピンをはっきり意識した発言ですね!」
松井
「してません。」
power
「一番印象に残っているレースを教えてください。競輪でもいいですし、その他のレースでも。」

松井氏直筆の絵とサイン。レアものですネ


松井
「99年の全日本実業団で優勝した時です。たまたま展開に恵まれて勝てたのですが、こんな大きな試合で勝てた事は、忘れられないですね。」
power
「勝った試合はどうしても忘れられませんよね。何故勝つのはこれほどもまでに楽しいのでしょうか。機材について質問しますが、今乗っている自転車は何ですか」
松井
「トラックはBARAMONです。九州の方のメーカーです。ロードはシロモトです。」
power
「バラモンとシロモトですか。そういえばバサラというカレー屋さんが京都の荒神口にありますね。一度も行ったことは無いですが。自転車のバラモンとは恥ずかしながら耳慣れない名前ですが。気に入っていますか?」
松井
「うーん、しっくり来てはいませんね。まだ自分の一台に出会ってはいないのです。メーカー名を聞き慣れないのはそうでしょう。なんと競輪は規定により、国内の登録された機材しか使用してはいけないんですよ。」
power
「そうなんですか!知りませんでした。覚えておきます。んで、何でしたっけ?早速忘れました。なんて。では、もしヨーロッパ製のカーボンフレームなどを使っても良いとしたらどうですか?」
松井
「そりゃあそちらを使います。アマチュア用の高級な機材の方が進みますし。」
power
「そうですか。そんな状況で機材にこだわりはありますか」
松井
「競輪は別に無いですよね。どうしたって規格がありますから。フレーム以外選択の余地があまり無い。」
power
「整備はどうでしょう?」
松井
「試合の時はバッチリします。全部自分でしなければならないんですけれどもね。普段の練習のときはあまり整備しませんね。」
power
「パンク修理はどうですか、私は不得意なんですが。」
松井
「あ、嫌です。」
power
「そうこなくては。で、好きな果物は何でしょうか?」
松井
「・・・・・・・・・全部好きです。」
power
「現役理系大学院生に質問します。九九で好きなのはどの段ですか?」
松井
「2の段が一番早く言える。」
power
「私は5の段が一番得意です。こんな事に触れてよいのか分かりませんが、このサイトを見ている人の為に、私powerについての解説が、友人として何かありますか?」
松井
「映画、会話、グルメ、ファッション、自転車のうち、ひとつしか勝てないというあらゆるものへの情熱家。特にラーメンに対する情熱はなみなみならぬものがあり、生涯で食べた麺の総延長距離は裕に日本一周するであろう。」
power
「面白いですが、全然私とはかけ離れているような・・・。簡単に言えばバチグンのクールさであるわけですね。ありがとう。クールと来れば自転車。競輪自体、または自転車に乗っている松井君自身、クールだと思いますか?」
松井
「やはり自分は自転車に乗っているときが一番映えるのかな、と。街を歩いていても、ただの丈夫そうなにいちゃんですから。」
power
「確かにその胸の厚さはすごいです。さて、最後になりますが、重要な点です。競輪はスポーツなのか、それとも賭け事なのか?私としては賭け事という認識が高い、つまり俗っぽい印象が払拭できないのですが、松井君はどう考えていますか?」
松井
「自分自身は、スポーツ選手としてのプロ意識を持っています。賭けられることによって、オッズ=期待の大きさが決まってくる。当然その数字によってお客さんの貴重なお金(とその後の夕食のおかず)が左右されるわけですから。ですが、おっしゃる通り競輪のイメージの低さは何とかしたいと常に思っています。競馬は脱俗に成功しましたからね。しかし、考えてみてください。サッカーだってtotoという賭けがあるわけです。賭け事をしたいのであれば、サイコロを振っていれば良いのです。つまり私は競技そのものを楽しんで欲しいのです。」
power
「貴重な時間をどうもありがとう、論文と競輪、どちらも頑張ってください。」
松井
「こちらこそ、どうもありがとう。」



「松井が、競輪受けてる?」と驚いたのは数年前のこと。あれよあれよと彼は合格し、頭をまるめて競輪学校から帰ってきた。見違えるようにしっかりとした体に仕上がってきた松井。だが一言一言を選びつつ話す彼の姿は、まぎれもなく、ミステリアスな魅力を発しつづける本来の松井以外の誰でもなかった。

おとなしい風体とは裏腹に、内側に秘められたパワーにpowerは圧倒されかけたのであった。うまいですか?しかしプロの世界は何であれ、楽しさだけでは語れないのだ。


interviewer : power(2001/09/30)

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