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「カメラ・ツールド信州・10位」 power×近藤淳也氏

みなさんお元気ですか。私も元気です。
本日は近藤淳也氏とのインタヴューをお送りいたします。
氏は自転車競技のカメラマンでもありながら会社の社長でもありツールド信州というレースも開催しながら自身もツールド北海道でステージ10位という成績も残されているというにわかには信じられない経歴の持ち主なのですが、powerの同級生ということでインタヴューをさせていただくことになりました。
自転車競技をファインダー越しに眺めた世界に氏は何を見るのか。レースを開催することは一体何のメタファーなのか。ツールド北海道で10位に入賞したことは氏のシナプス結合にどう影響を与えつづけてきたのか。会社を経営することは自転車と関連があるのか。などいつもの如く鋭く且つ狡猾に彼の心の底に秘められた金庫のダイヤルを左に200、右に203回すインタヴュー200203!



power
「こんにちは。超多忙と聞いておりますが、貴重な時間をどうもありがとう。では早速始めたいと思います。どうぞよろしく!」

近藤
「はいどうぞよろしく」
power
「簡単に自己紹介をお願いします」
近藤
「近藤淳也、昭和50年生まれの26歳です。いまは会社の社長をやっています」
power
「なるほど。簡単に言うと26歳で会社の社長、ということですか」
近藤
「どこも簡単になってないんですが」
power
「で、自転車に乗りはじめたのはいつですか」
近藤
「スポーツとしての自転車とすると、中学2年の頃にサイクルスポーツ誌を購読するようになった頃からでしょうか」
power
「中学2年生から読んでいたとは、かなり早いですね。小学生で微分積分が出来るレベル、と言えましょうか。というよりは私思うに小学生で微分積分が出来たところで何も意味は無く、むしろ幾何学に優れている方が圧倒的に望ましいと思えて仕方がありません」
近藤
「その頃は陸上部で長距離をやっていたのですが、自主的に家に帰ってから自転車の10kmTTとか、アワーレコードに挑戦、とかやってました。アワーレコードは車の少ない夜中の10時くらいに田んぼの周りをぐるぐると回って、確かロードマンで31kmくらいだったと思います。その頃からよく遠出もしていましたね」
power
「家に帰らなくなるやつですね。さぞかし親が心配されたでしょう」
近藤
「それは家出。ちなみにアワーレコードとは私たちの記録ではなくて1時間の記録です」
power
「あら、私はどれだけブクブクできるかの記録と勘違いしていたみたいです。それは泡レコード、と」
近藤
「そんな間違いするやつおりません」
power
「なるほど。それにしても31km/hとは悪くないですね。さて近藤氏も無事成長されて大学へ。何故大学に京大を選んだのですか」
近藤
「ギリギリ受かりそうだったからです。あとノーベル賞がたくさん出ているのも魅力でした」
power
「理系は京大、ですか。京大理学部と言えば映画『南極物語』でも出ているそうですが、そういったことも近藤氏を惹きつけたのかもしれませんね。入学してからしばらくはサイクリング部で、その後に自転車競技部へ。まずは何故サイクリング部を選んだのですか」
近藤
「高校の時にはすでに三重~東京間を自転車で往復したりとか、ツール・ド・フランスのビデオをくまなく見たりしている自転車大好き人間だったので自然な流れで。競技部じゃなくてサイクリング部だった理由は、その時は競技よりも色々なところに行ってみたいという興味の方が大きかったんです。高校2年の時に東海道を走破して、受験が終わって時間ができたらとりあえず日本一周はしようと思っていました。ちなみに結果的には日本2、3周とアメリカ横断をする羽目になりました」
power
「これは凄い。私の知らない間にいろんなところに行ってたんですね。でその後どうして自転車競技部に入ったのですか」
近藤
「自分の中でロードレース、特にステージレースというのはこの世の中で一番好きなスポーツなので、どうしても一回ツール・ド・北海道に出たかったんです。子供の頃からの夢だったんで。だから1年だけそのために時間を使おうと」
power
「夢追い人と呼んでもいいですか?」
近藤
「駄目です」
power
「ツールド北海道はどうでしたか、確か初日のTTで10位に入るという快挙でしたね」
近藤
「あの時のコミュニケを額に入れて飾っておきたいくらいです。でも翌日からは良くなくて、第4ステージで時間切れになったときは涙が止まらなかったです」
power
「今から振り返って比較してみると、サイクリングと自転車競技は違いますか」
近藤
「価値観の多様性じゃないでしょうか。サイクリングというのは、絶対的に正しいというスタイルはないですよね。まったりのんびり走る人もいれば、バキバキ全力で走る人もいる、でもどっちが正しいとかそういう問題じゃないんです。競技部の方は、基本的に「勝つこと」が正しい。自分にとってはどちらも魅力的ですね。前者は自分に多様性を持たせたり謙虚さを教えてくれたりしますし、後者は自分の闘争心とか優越感を満足させてくれます。ちなみにちょっと大きなことを言わせてもらうと、人生はその両面を持っているのでちょうどいい経験をしたなあと思っています」
power
「自転車の面白いところは何でしょうか」
近藤
「手軽な割に可能性に制限がないところでしょうか。天井が無い感じというか。写真や会社も似ている気がします。細かいルールとか、懐具合とか、制度とかに押さえつけられないのが良いですよね」
power
「最も印象に残っているレースは何ですか?」
近藤
「97年のツール・ド・フランスです。ウルリッヒがリースを置いてきぼりにして総合優勝した年です。僕はこのレースで人生を狂わせました。(笑)」
power
「あの時のウルリッヒは衝撃でした。後にも先にもあれほど面白いレースは無く、巷には『I ☆ Ulrich』と書かれたTシャツを着た老若男女であふれていた、そんな97年、夏でしたよね」

近藤
「意味がわかりませんが、その年僕は大学院進学のために自転車に乗るのをやめて研究に励んでいたのですが、シャンゼリゼ通りでツールのゴールを見て、また自転車に乗り始めてしまったんです。良くも悪くも大きな分岐点だった気がします。ちなみに僕はヴィランクのファンです」

power
「そうですか。私は誰のファンでもないのですが、強いて言うならばボードマンのフォームが大好きです。近藤君自身が出たレースで印象に残っているものは何ですか」
近藤
「自分の出たレースということで言うと98年の国体ロードです。40位くらいだったんですが、自分のロードレースの到達点だったと思います」
power
「ふむ。何であれ、あれが到達点だったと明言できるのは聞き手として気持ちがよくなりますね。言わずもがな、私にも到達点があるのですが今はどうしても教えられません」
近藤
「そうですか」
power
「そうです。さて、このサイトの主旨でもある質問を一つ。ロードは好きですか、クールですか」
近藤
「クールというよりはホットだと思います」
power
「うまい!ヤラレタ!・・・バタッ。ムクッ。次の質問です。ロード選手としての顔以外にも、一流カメラマンとしての側面を持つ近藤氏なのですが、自転車レースを撮っておられましたよね。ツールド北海道のカメラマンもしたりとか。そのことについて大まかに説明してくれますか」
近藤
「写真はアメリカ横断のときに一眼レフを買った時から始めたのですが、その写真や自転車に夢中になっているうちに就職に失敗したので、じゃあ写真で食っていこうということになって制作会社に入って修行をしました。で、自分のテーマとしては自転車が好きなので、自転車+写真でレースの写真というわけです」
power
「自然な流れなんですね。被写体としての自転車は、近藤にとって何でしょうか、またレースの写真を撮る事は面白いのですか」
近藤
「自分の写真にとってのレースは表現の対象ではなく、どちらかというと記録的な要素が強いと思います。写真家の中には表現としてロードレースを追求されている方もいらっしゃいますが、自分にとって興味があるのは『勝負』です」
power
「というと?あえて英語で言えばWhat do you mean by 勝負?なんですが」
近藤
「ロードレースの勝負は実に単純で、本当に勝ちたいと思っている選手が10人くらいいて、その中でゴールラインを横切るまで「自分が勝つ」と本気で思い込んでいるたった一人の選手だけが勝つんです。他の人たちは何らかの理由で自分の思惑が外れて諦めるんですよね。そうなると、まず誰が勝つ気でいる10人なのかという前提があって、あとはレースという過程の中でなぜ最後に残る一人の思惑が成功したのか、あるいは他の人の戦略は失敗したのか、ということが焦点となります。これを写真に収めようとすると、どうしても集団と一緒に走らないといけない。僕がバイクからの撮影にこだわるのはこれが理由です。景色の綺麗なポイントで待ち構えていれば写真的に美しい作品はできますが、ロードレースを素材に使って自分の表現をしたいという欲求はそれほどありません。むしろ、ファインダーの中の戦いを見極めることが重要だと思っています」
power
「お聞きしていると、レースを体験したことのある人とそうでない人だと、写真の撮り方が異なる気がしますね。レースの間(ま)を理解していないと無理そうな気がします。テクニック的に言えば、レースの写真を撮る上で難しいところは何ですか」
近藤
「さきほども話しましたがバイクからの撮影を主としていますので初めは大変でしたね。バイクの後部座席に乗せてもらって、後ろ向きに写真を撮るんです。180度後ろを向いてカメラを構えたまま下りのコーナーでも恐怖感がなくなるまでに数レース必要でした。でも自転車に乗っていたおかげで体重のかけ方とかは分かっているので普通よりも慣れは早かったと思います」
近藤氏
power
「確かに後ろ向きでバイクに乗るのは考えただけでも危なそうですね。次のコーナーは本当は右なのに、自分は左だと思っていた、とか。怖すぎます。ブルブル。前から後ろを見るという視点は、選手は味わえないものですが、どんな感覚なのでしょうか」
近藤
「ちょっと恥ずかしいですね」
power
「恥ずかしいとは面白い感覚ですね」
近藤
「そうですか。それから、他に難しい点といえば、一部の審判の理解の無さが一番大きいと思います。審判の方にはレースの記録の重要性というのをなかなか分かってもらえなくて、どちらかというと事なかれ主義で「選手から離れろ」の一点張りの方が結構いらっしゃいます。無線で怒鳴られながら写真を撮ることもざらですよ。ぜひ一度ジロ・デ・イタリアあたりのビデオを見てもらいたいです」
power
「なるほど。色々と苦労しているんですね。それにしてもどうしてレース中の審判って怒鳴りたがるんでしょうか。トントン、「あなたはそんなに怒鳴ったりしていますがね、そんなに興奮しているのはあなただけですし、それにあなたは偉くもなんともないんですよ」と言ってみたいです。さてそんなことより、自転車は前進していなければ立っていることが出来ません。動いているものを一瞬に収める、ことについてどう考えますか」
近藤
「うちの会社も自転車操業です」
power
「そうですか。先日のmakiさんも同じようなことをおっしゃっていたように記憶しています。サイクリストと自転車操業は切っても切れないのでしょうか・・・謎。ズバリ、自転車とカメラの類似点は何でしょう」
近藤
「一人で山の中にこもって修行をして一番になれることです」
power
「重要な質問です。世の中には重要そうでそうでないもの、またはその逆のもので溢れていますね。フリッパーズギターのカメラカメラカメラという曲を知っていますか」
近藤
「知りませんが、友人にそういう名を名乗る背の高いやつがいます」
power
「相当な変わり者とお見受けします。初心者がうまく自転車の写真をとるのにコツは何でしょうか」
近藤
「オートフォーカスの望遠レンズを買うことです」
power
「オートフォーカスの望遠レンズ。そうですか。それがコツだったんですね。やっぱりよい物が必要なんですね。さて、近藤氏は自転車レース、ツールド信州をプロデュースしていますね。私は一度も参加させていただいたことはないのですが、とても面白いと思います。どういった動機でレースを立ち上げ始めたんですか?」
近藤
「日本のロードレースって面白いですか?確かpower氏も前に書いていたと思うのですが、同じコースをぐるぐる回ってあんまり面白くないと思うんです。学連のレースを走っていて、途中で「このままいくと今年だけで修善寺百周くらい走るんじゃないか」と思って「僕は二十日ねずみじゃないぞ」と思ったんだけど、それじゃあ観客が集まらないのも仕方ないと思うんです。本当のステージレースといえるのは北海道と熊野くらいじゃないでしょうか」
power
「それには激しく同意です。ぐるぐる回るのは観客のための筈なのに、観客はいない。選手達がくるくる回る、審判も回る。完。それが日本のロードレースです。今度群馬のCSCがつぶれるかも、という話を聴きましたが、レースが開催できなくなる以外に、それで?と思ったのも事実です」
近藤
「ロードレースの一番の醍醐味はやはりステージレース。日本人というのは国民性として絶対にステージレースが好きだと思うんですよね。一号線を封鎖して行なわれる箱根駅伝の選手の中で、何人名前を知っているかというとほとんどの人が知らない。それでもあれだけの規模で続けることができるんです。マラソンも人気がありますしね」
power
「観客のレベル的には充分自転車ステージレースに耐えられるわけですね」
近藤
「そうです。で、信州にはアルプスとかと比べても標高的に全く変わらない峠がたくさんあるわけですし、だったらそこでステージレースをやらない手は無いじゃないか、というのが動機です。現在はまだ規模が小さいですが、いずれ日本のロードレースを変えられるようなことができればと思っています。もっと正攻法があると思うし、実際実行されている方もいらっしゃるでしょうが、こういうツール・ド・信州のようなアプローチがあっても良いだろうと思っています」
power
「実感はありますか?」
近藤
「ファンライド誌には初回大会から記事を載せて頂いていますし、去年はテレビ局のNBS長野放送も取材に来てくれましたし、年々少しずつですが進歩しています」
power
「これからもどんどん発展していけばいいですね。自転車のレースを運営することの問題点は、どこにありますか」
近藤
「事故のリスクですね。これはどうしたってゼロにはならないし、そのリスクに対する脆弱性は否めません。保険などはかけても、基本的にレース中は「祈る」くらいしかできませんから」
power
「私は3年連続ツールド北海道で事故しましたが、それがツールド北海道の脆弱性を証明したと自負しています。証明できていませんか。さて、直接的な質問ですが、レースを運営するのは面白いのですか」
近藤
「これはもう最高にやりがいのある仕事ですね。ありとあらゆる能力が要求されると思うのですが、自分はそういうのが好きみたいです。ライフワークだと思っています。あと、昨年は周山ロードやツール・ド・信州で活躍した小嶋選手がインカレでチャンピオンになったので、その時の喜びは格別でした」
power
「小嶋氏はやりましたね。今は大学でおとなしく勉強しているそうです。では、ツールド信州とツールドフランスを比較してください」
近藤
「まっとれフランス」
power
「なるほど。つまり、フランスに待っていろ、と。そういうことがおっしゃりたいのですね。命令形ですね。にしても、ツールド信州がツールドフランスを凌駕する日を心待ちにしたいと思います。なんにせよ日本はGDPではフランスを追い抜いているのですものね。さて、最後の最後になりましたが、もっとも期待されている質問を投げかけてみたいと思います。好きな果物は何ですか」
近藤
「桃です。この世で一番おいしい果物は桃だと思います」
power
「おっ・・・・・。はっきりとした理由はありませんがこの世の中に、心の友と呼べる人間が存在するとすればそれは近藤氏であるような気がしてなりません。今日はどうもありがとうございました」
近藤
「こちらこそ、どうも」





自転車の楽しみは乗るだけではない。レースだけではない。それに纏わるありとあらゆる事柄がバチグンなのだと爽やかさ溢れる近藤氏の目は語っていた。仕事さえも自転車というフィルターを通して解釈されると魅力的に輝く。そう、真昼の太陽が他の星々の微かな明かりを圧倒的に凌駕するように。自転車とはどこまでバチグンなのか、私はほとほと呆れてしまった。
近藤氏が最高にやりがいがあるとするステージレースがさらに発展し、フランスを越える日がやってくるのが楽しみに待ちたいと思う。

power (2002/03/31)

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