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「ジロデイタリア完走の意味」 power×野寺秀徳氏

暑いですがみなさんお元気ですか。私は暑いので元気です。
梅雨が明けそうなこの季節に、野寺選手とのインタビューをお送りします。
野寺氏って一体誰?と思われる方は、再ログインして下さい。ジロデイタリアを完走した2人目の日本人、それが野寺氏です。この凄さがわからない方は、再ログインして下さい。
世界最高峰のステージレースを走りきること、イタリアでプロとして自転車に乗ることは一体全体どのような体験なのでしょうか。今や日本のロードレース界を牽引する、そして世界で活躍する野寺氏は実はpowerと同学年でもあり、何度も同じレースで走っていたのでした。その野寺氏が今やジロデイタリア。嬉しい限りなのですが、彼自身、どのようにロードと携わっておられるのでしょうか?
全く気取ることの無い気さくな野寺氏のスキをついて、境遇、考えていること、レースの事など、知りたいことを臆することなく尋ねたインタビュー!



power
「こんにちは。はじめまして!・・・とは言いません。なぜならば同学年で共にレースを走ったことが何度もあるからです」
野寺
「そうですか、覚えていませんでした」
power
「ドテッ。しょっぱなから大変失礼しました。ジロでお疲れのところすみません。しかしさらに疲れて戴くのがこのインタビューの目的ですので、今日は最初から最後まで正座でお願いできますか?などと言ったら怒られてしまうので、気楽にどうぞお願いしますー」
野寺
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
power
「では早速なのですが、ごく簡単に自己紹介をお願いできますか?」
野寺
「伊豆生まれの伊豆育ち。修善寺高校で自転車を始め、法政大学へ。その後シマノへ就職、2001年からイタリアのプロチーム、コルパック・アストロで走っています」
power
「ふむ。エリートコース、と呼んでも良いですか?」
野寺
「いい響きですね。でも内緒ですが真実は『行き当たりばったりコース』です」
power
「内緒にしておきましょう。自転車に乗り始めたのはいつですか」
野寺
「初めて自転車に乗ったのは保育園の時だったかな?夜仕事から帰ってくる父を修善寺駅まで迎えに行った後、実家の庭で練習したのを覚えています」
power
「それは補助輪が取れた、と言うことでしょうか?」
野寺
「そうですね。補助輪無しの自転車に乗るためのトレーニングです。確か自転車には宇宙戦艦ヤマトの絵が・・・」
power
「もしもですよ、ジロデイタリアに補助輪付きの自転車に出ている人がいたとしたら、と想像しませんか?それでインテルジロをガーンと取りに行くんですね。ガラガラ言わせながら。それから補給を受け取るときには、渡す人が玉に当たらないようにジャンプしなければならないのです」
野寺
「もしそんな超人が現れたら、僕はもう自転車を続けていく自信を無くす事でしょう…現実逃避の旅に出ます」
power
「片道切符ですか?って私は何を言っているのでしょう。続きをお聞きするのを忘れるところでした。それから?」
野寺
「本格的に競技として始めたのは高校の自転車部に入ってからです。当時は学校の方針でピストばかり。一年生の時はロードジャージを着ただけで、先輩から怒られました。競輪用のヘルメットに、Tシャツ。長指グローブに、靴下なしで、クリップペダル。当然‘街道練習’もピストでした。競輪学校がそばにあった影響でしょうか?でも良い思い出です」
power
「現在は何をされているのですか?」
野寺
「現在はここイタリアのベルガモで、晩御飯にピザを食べたところです」
power
「ピザ。イタリア料理はどうですか」
野寺
「とても美味です。流石は食文化の国です。普段は摂生のため好きなものを食べる事も出来ませんが、たまにレストランに行って適当に頼んでも失敗した事はありません。イタリア人も誇らしげにしています。なんと言っても、焼きたての大きなピッツァが3.5ユーロから高くても6ユーロで食べられるのは最高です!毎日でも食べたい。しかし日本食の美味しさには到底及びませんね」
power
「そうでしょうそうでしょう。日本食の素晴らしさには世界中の全ての料理がひざまずくのです!そしてその中でも美しく繊細な薄味の京料理にはありとあらゆる料理がひれ伏すのです!あ、どうぞ」
野寺
「‘博多っこ’のメニューなら1日3食でも良いでしょう」
power
「・・・って九州ラーメンやん!でもおいしいので大丈夫です。ついでに好きな果物も内緒で教えて下さい」
野寺
「梨でしょ。夏の終わりを感じさせる哀愁漂う甘さが魅力です。洋ナシではだめです」
power
「洋ナシではだめとは、やっぱり日本人ですね!先日私は佐藤錦と言うサクランボの最高峰を食べました。甘いと言われるアメリカンチェリーの637億倍おいしかったです。何がおいしいかと言えば、そのセンシティブな味なんです。日本人であればその微妙なところがわかる筈なんですね。今日は私の好きな果物については触れないで下さいね」
野寺
「特に気になりませんよ」
power
「ガク。さて、イタリアで日々のスケジュールはどんな感じですか」
野寺
「そうですね。レースが無い日は、朝起きて食事。9時半から2時間から8時間のトレーニングをこなし、その後はイタリアについて勉強しています」
power
「8時間って長いですね。やはりプロですね。勉強しているんですか?」
野寺
「・・・ピザの焼き方とか・・・」
power
「今度ごちそうして下さいよー。生地が厚めのナポリ風が好きです」
野寺
「ナポリのピザは美味しいらしいですね。残念ながらイタリアは郷土色が強い国なので、ベルガモでは食べられません。選手を辞めたら修行の旅に出てきます。それまで楽しみに待っていてください」
power
「待てません!のでちょっとナポリまで行って来ます。ただいま。モグモグ。イタリア語はどうですか」
野寺
「他の国の言葉に比べ聞き取りも簡単で話しやすい。といっても僕は常人より4倍の時間を掛けなければ修得できないようです。しかし人並みの4分の1のペースでも、進歩はあるので合格です。イタリア人は、こちらが理解していなくてもドンドン喋ってきます。勉強するには逆に助かります。最近はイタリア語の音楽CDをよく買って聞いています。何を言ってるのかは解りません」
power
「なんだか感動しました。ではイタリア人はどうですか?」
野寺
「親切でよく喋る。どんな話題でも、話しているうちにエキサイトしてきます。そうなると、誰も人の話を聞きません。折れる事を知らず、自分の考えをだけを話し出します。とても熱い人種だと思います。決して譲らない性格は自転車競技に向いているのかもしれません。少々おせっかい過ぎて困る事は良くありますが、皆生き生きしているように感じます。良くも悪くも、日本人には無い大雑把さがありますね」
power
「なるほど」
野寺
「あと、裏表が激しい。いわば京都人!!だと思います。表は親切。裏は芸人…?」
power
「京都人を前にしていることを忘れんといてやー」
野寺
「あ。しかしここには『ぶぶ漬け』なるものはありません」
power
「そうですか。つまりまとめると、イタリア人≒京都人=親切=格好いい=チャーミング、で大体合ってますか?」
野寺
「言い過ぎです」
power
「いやー。にしてもどおりで私もCIAOと言ってしまうわけです。CIAO!さて、ワールドカップサッカーは見ていますか?」
野寺
「当然です。今日もトレーニングの予定を大幅に短縮して、トルコ-ブラジル戦を見ました。イタリアはもう負けたので、近所から聞こえる絶叫も無く、穏やかなTV観戦です。日本チームの頑張りには感動しました」
power
「ありがとうございます」
野寺
「僕も日本人ですけど」
power
「あっ!さて、そろそろジロデイタリアの話題に行きたいと思います。ジロデイタリアを完走した今、何を考えておられますか」
野寺
「とりあえず今は、何も考えたくないという状況ですね。しかし、これから先の競技生活で何を目標にしようかという事は思っています。『次は何を達成すれば、自分が前進した実感が得られるか?』そう言う事は常に考えています。まずはプロで1勝が目標です。あと、せっかく頑張ったんだから、リオデジャネイロと勘違いしないで下さい。という事でしょうか?内輪ネタですみません」
power
「わかりませんでした!昨年と違って今年は完走されました。何が違っていたのですか」
野寺
「やはり一度走っていた経験は大きいと思います。ステージレースを走り続けるためには、ある程度肩の力を抜いて、力を温存する事も必要です。昨年は焦るばかりで、状況が見えず、そんな余裕はありませんでした。ただ、ある程度解っていた今年でも、やはり走り続ける事は非常に難しかったです。ジロはそれだけ厳しいレースです。走り終わった後の気分は最高でしたね」
power
「ジロは日本のロードレースと比較して、何がどう違うのでしょうか」
野寺
「ジロだけではなくヨーロッパのレース全てに言える事だと思いますが、とにかくペースが速いです。登り、平地、下り、どれをとっても日本のレースでは体験できないほどのペースでレースが進んでいます」
power
「そんなに速いんですか?」
野寺
「朝起きるのは比較的ユックリです・・・そうじゃないですか?」
power
「はい、それは“速い”と“早い”を間違えていますね。明日までにノートに例文を1,000回ずつ書いて提出して下さい、と言いたいところですが、辞めときます」
野寺
「もう言っているじゃないですか。僕も少々反省しつつ話を戻します。穏やかだったはずの集団も一度アタックが掛かれば、恐ろしくペースが上がり、なかなかペースが緩む事がありません。競技人口が少ない日本では、なかなかこうは行きませんよね。全ての場面においてスペシャリストが存在し、最後に勝てる人間のために、それぞれの選手がそのスペシャリティーを生かしレースを走っています」
power
「プロである、という事ですね」
野寺
「そうです。そして、ジロでは目立つのは一握りのエースたちですが、その下に居る百何十人というアシストも1流のアシスト選手です。強い選手たちが、更に強い選手のために全力で走る。そうしてペースが上がり、レベルが上げられていきます」
power
「聴けば聴くほどすさまじそうです。それで率直に言いまして、ジロはしんどかったですか。10段階で表すと?」
野寺
「★★★★★★★★★★。10点満点です。誤審は一切ありません」
power
「しんどい時を含め、レース中には何を考えますか?」
野寺
「数時間後に必ずやって来る、自転車に乗っていない自分を想像します。『あーなんて幸せな奴だ!』。でも勝ちに行く時のしんどさと、ちぎれる寸前のしんどさは別物ですね。前記はちぎれそうなときです。その他の時間は色々ですね。たまに思い出し笑いをしてしまい、怪しい人になる事もあります」
power
「それは怪しいですね。さて、例えばチッポリーニといったトップの選手たちと走ることは殆ど全ての日本人サイクリストからすれば夢物語ですが、その気分を言葉にすれば、どうでしょうか」
野寺
「写真一緒にいいですか?」
power
「はははー」
野寺
「・・・ってそんな事言えません。僕も前からチッポリーニのファンでした。そんな彼らと一緒に走る事が出来るのは、光栄な事です。しかし日本人で目立つせいか、有名な選手に声を掛けられる事は良くあります。失礼な事に、話し掛けられて後から一流選手だと気付く事もよくあります。しかし最近は余り意識しないですね。でも後ろに付かれると緊張します。転ばせたらイタリア全土から非難の声が挙がって来そうです」
power
「バナナの皮を落とさないようにしないといけませんね。ポトリと」
野寺
「あ!不覚にもそれには気付きませんでした。クールで渋いチッポリーニが、バナナの皮で滑る姿なんか想像したくありませんね。でもいつか彼とゴール勝負する時が来たらこっそりと…」
power
「それを見ながら『あれ、僕が教えたんやで!』と指さしながら叫びます。で、ジロほどのレースだと下りも速いと思うのですが、最高速度は何km/hでしたか」
野寺
「そう言えば?です。気にしている余裕がありませんでした。しかし途中1度目のTT、僕が90km/hで走った下り。その日トップだった、Hamiltonは110km/hでていたそうです」
power
「ふーむ。兎に角速かったと。そういうことですね!さて、脈略がない質問で恐縮ですが、ジロの応援はすごいみたいですね、選手として体感されてどうでしたか」
野寺
「本当にすごいです。一瞬で通り過ぎてしまう選手のために、何もない山の上に人垣が出来る。たとえ最終のグルペットで走っていても、熱狂的な声援で迎えてくれます。彼らの声に励まされる事は多いです。たとえ僕のような選手でも惜しみなく声援を送ってくれる。日本では、なかなか味わえない感動です」
power
「後ろの選手に対しても熱狂的な声援とは凄い。皆さん自転車競技が好きなんですね」
野寺
「そうです。もう一つ気になったんですが保育園の前を通過する時に、園児たちは声をそろえて『パンターニ!パンターニ!』と言っている事が多いです。彼の神経質な性格が子供うけするとは思えません」
power
「どうしてなんでしょう」
野寺
「丸い頭と黄色いジャージが、イタリアで人気のピカチューとクロスオーバーしているのでしょうか?」
power
「それならテレビを観るときには部屋を明るくして画面から離れる必要がありますね。関係ありませんでした。ところでジロの後に市川さん、今中さんからは、何か言葉がありましたか」
野寺
「恐れ多くて・・・」
power
「そうですか。そういう謙虚なところが野寺さんの人徳ですね!振り返ってみてジロを完走したことは野寺さんの人生にどのような意味を持ちますか?」
野寺
「大きな誇りになります。誇りを持つ事は人生の要になります。しかしその一方でただの通過点とも考えています。過去の成功が、未来を約束してくれるとは限りません。常に新しい目標を持つことは、生きていくうえで大切な事ではないでしょうか?あ!あと、老後の自慢話に花が咲きます。飲み屋の閉店までには話しきれません」
power
「今後ツールドフランスへ出場する機会はあるのか無いのか、どうでしょう」
野寺
「今のところは考えられません。しかしジロに出場する事も2年前には考えられなかった。選手である限り、可能性はゼロではありません。しかし、チームTTだけは…」
power
「弱音を、吐くな!勝手に怒ってみました。しかし、その機会が来たら是非頑張って下さいね!さてさて、テキストにしたら100ギガのハードディスクにも収まりきらないという超絶経験をされた野寺さんではありますが、どうでしょう、自転車は面白いですか?」
野寺
「残念ながら面白い事ばかりではありません。思うように走れないとき、目標が見えなくなりやる気が無くなるとき。全く面白みを感じない事はよくあります」
power
「メモします。『全く面白く、な、い』・・っと」
野寺
「でもレースで勝った瞬間にそんな事は全て吹き飛び 『なんて、すんばらすぃースポーツなんだ!!』 と思ってしまう。ヤッパリ最高に面白いです」
power
「『最高におもし、ろ、い』・・っと。どっちやねん!では、自転車はクールですか?」
野寺
「当然です。そう思ったからこそ、この競技を始めたのだと思います。初めてTVで見たツールの映像は衝撃的でした。同じような理由で自転車を始めた人は多いのではないでしょうか?ロードレースは単純な競技です。一本のゴールラインを誰よりも早く通過すれば勝ち。しかしスプリントになれば、ほんの1cmが勝敗を分ける。その差は天国と地獄ほど大きなものになります。選手はその1本のラインを誰よりも早く通過するために、膨大なトレーングを積み、200kmにも及ぶレースに臨みます。勝利する可能性を秘めながらゴールラインに近づいていく時の、耐え難いほどの緊張感は他では味わえません。一瞬の判断ミスが結果を左右してしまいます。言うならば獲物を狙う、飢えた猛獣の気分でしょうか。過激にクールです」
power
「しんどさと、クールさの関係は?」
野寺
「自転車競技は時として本当に苦しい競技です。苦しくて、それを超えた時に頭の中が覚醒されます。自分の体が自分の物で無くなり、恐怖心すら薄らぎます。言うならば幽体離脱状態。考えただけで背筋がクールです」
power
「はて?何言ってるんですか。・・・けどウケてしまいました。クールです!!さて、クールさと強さは土俵が違うと言うことは私自身体感して嫌と言うほど思い知らされているのですが、どうすれば野寺さんほど強くなれるのでしょうか」
野寺
「今の日本で、強くなるための具体的なトレーニング方法を学び、実践するのはとても難しい。僕が選手として一番伸びたと思う大学時代、効率的なトレーニングの方法を知るすべを知りませんでした。強くなる為にした事は、ひたすらトレーニングをすること。人よりも努力する事でした。大学4年の時には、インカレ前の暑さの中、一月で4000km近く乗りました。春先には、府中の合宿所から富士山を1週、富士山の登りから雨が降ってきましたが、帰りに津久井湖を5週して300km近く走ったこともあります。効率が悪そうですが、確実に強くなれる方法でもあると思います。その後の選手生活の過程でも、基本的な考え方は変わっていません。。。勉強は苦手ですから・・・」
power
「・・・・・・・。道理で歯が立たなかった訳です」
野寺
「プロのレベルではそれだけでは駄目ですけどね。しかし、自分が強いとは思った事がありません。自転車を始めてから、常に周りには自分より強い人間がいたし、彼らよりも強くなりたいと思い、努力してきました。たとえレースで勝っても、自分が強かったとは考えずに『なぜ勝つことが出来たか?』と考えます。『展開に恵まれた』とか『強いチームメイトの助けがあったから』と思うことが殆どです。僕の場合、もし自分が強いと思ってしまったら、トレーニングの意味が半減してしまうように思えます。人より努力すればツキが回ってくると信じています」
power
「これほどまでに自分が強くなると思っていましたか?」
野寺
「中学の時初めてTVでツールを見たときには『俺でもできる!』と思いましたね。しかし競技を始め、自分が成長すればするほど世界は遠い存在に感じてきました。先を見るのではなく、今自分が置かれた状況で精一杯努力した結果、いつの間にか今のような場所で走る事が出来るようになっていました。今までこの競技に集中できたのも、廻りの人たちの支えがあったからこそだと思います」
power
「努力して掴んで行く。地道ですが最も難しく、しかも最もクールですね!競技に集中してこられた、ということですが、大学時代ロードが強くても卒業後に競輪に進む人が多い中、ロードを選択したのはどうしてですか。まあ体格的に競輪向きでいらっしゃらないような気もしたりするんですが」
野寺
「幼い頃から自転車に乗る事が好きで、近くに競輪学校があるせいか、近所の人や親戚から『将来は競輪選手だな!』とよく言われました。人から先に言われるとやりたくなくなるタイプです。もっと練習しろ!と言われれば、意地でも行きたくなくなります。変わり者なんですかね~?」
power
「変わり者かどうかは置いておいて、コホン。『ツールドフランスで絶対に優勝するな!UCIランキング1桁に入るな!』・・・私の出来ることはしました」
野寺
「・・・なんだか妙にツールで勝ちたくなってきたような・・・。ただ単に興味が無かったとも思えます。当事収入の事など全く考えていませんでしたし、ロードの道に進む事に迷いはありませんでした」
power
「そうですか。ロードが好きなんですね。さて、少々気になる点なのですが、シマノを通してコルパックで走っておられるんですよね、個人で渡欧していわば叩き上げでプロになり、走った市川さんなどとの違いはありますか、そして、それを意識されますか」
野寺
「意識すると言うよりも目標にしています。市川さんは凄い選手です。プロで走るようになってからは、更にその事を感じています」
power
「確かに市川さんは凄い。ジロ50位ですものね」
野寺
「いろいろな面で足元にも及びません。ですが、それとは別に、自分がやった事には誇りを持っています。確かに自分の力だけでヨーロッパの地へ出ようと思うことは、僕には出来なかったと思います。ヨーロッパに渡り、ヨーロッパのカテゴリーで勝ち上がってプロになった選手と比べれば、簡単にプロになってしまったような印象でしょう。しかし僕にとって、大学で走ること、シマノのような強力な実業団で走ること、そこで強くなりヨーロッパのプロチームへ入れてもらうこと。全てが夢であり目標でした。可能性を心のどこかで信じ続け、実現した事は自分なりに凄い事だと思っています。そしてプロの世界では、どの様にしてプロになったかではなく、その場での結果が問われる場所だと思っています。今はまだ胸をはって言える様な結果は出せていませんが、そのために頑張っています」
power
「なんか、ジーンとしてしまいました。Scusi!ハンカチ持ってきてぇ!」
野寺
「いやいや。ハンカチPrego」
power
「で、これからも強くなれそうな感じですか」
野寺
「強くなれないと思ったら、上達は無くなります。常に『過去の自分よりも進歩を遂げたい!』と思い、走っています。でも弱気になる事もよくありますね。今のところは手ごたえを感じていますよ」
power
「ほんと頼もしいです。まあもしここで『手応えなんかもはや全然感じません。もう辞めて家に帰って修善寺サイクル温泉につかっていたいです。そして100まで数えてから上がります』とでも言われても困りますが。ところでヨーロッパは自転車が盛んなのですか?」
野寺
「てんこ盛です。文化の一部って感じがしますね。確かにサッカーの方が人気はあるようですが、普段町で目にする選手人口は圧倒的に自転車です。日曜日なんかは目を疑うほどの大集団がたくさん走っています。老若男女問いませんね」
power
「ムクッ!何ですってぇ!目を疑うほどの大集団が、走っているですって?ただただただただ素晴らしいです。称してサイクルパラダイスですか?」
野寺
「まさにその通りです。是非一度、日本のサイクリストに見てもらいたい光景ですね」
power
「消費税を引き上げたり引き下げたりする前に『日曜日は大集団で自転車で走る』という公約を掲げる政党が出てきて欲しいところです。投票しませんけど。ところで、女性ロードレーサーの方も結構power's cycle diaryを読んでいらっしゃるようなのですが、女性レーサーの方に何か一言ありますか。あ、そういえば野寺さんの奥さんも自転車をやっていらっしゃったのでは・・?」
野寺
「そうです。妻とは大学時代のチームメイトです。国内での成績や肩書きは彼女の方が上なので、よく自慢されます。女の人が自転車を乗りこなす姿は非常にクールです。イタリアにはクールな女性レーサーがたくさん居ます。そんな光景を是非日本でも作ってください」
power
「日本のロードレース界は競技人口の低迷など課題が多いのですが、どのように考えられますか?難しいテーマではありますが」
野寺
「本当に難しい問題です。文化に溶け込む歴史が無い事、一般道の使用許可の問題など挙げたらキリがありません。世界に通用する選手が居ない事も、競技人口向上に繋がらない要因の一つでしょう。もっと多くの人に、この素晴らしい競技を知ってもらう必要があります。街中でレースが出来ない今の状況で、第3者に見てもらうにはメディアの力が必要でしょう。今の僕にできる事は、そのメディアが少しでも注目してくれるように、頑張って走る事ぐらいです」
power
「その笑顔で、サイクルアイドル、略してサイドルになって下さい!・・・って格好悪いですね。さて、そろそろ終盤に近づいてきました。疲れましたか?」
野寺
「まだパレード走行って感じですね」
power
「むむ。おぬしやるな!なんて。さて幾つか単発的にお聞きしてみたいことがあります。いいですか?」
野寺
「だめです」
power
「では行きます。ペダルは踏むのですか、それとも回すのですか」
野寺
「ずばり踏むものです。回すのは苦手です」
power
「やっぱりそうですか。次に行きます。とあるサイトを見ると、自分の事をスプリンターであると評しておられますね。私はクライマーではないかと思っていたのですが、そのあたりどうでしょう」
野寺
「え?そんな事書いてありました?自分がスプリンターだとは知りませんでした。確かに一瞬のスピードを武器にする事はありますが、スプリンターのそれとは別物だと考えています。日本では『登りが強い』と言われる事もありますが、ヨーロッパのレベルでは恥ずかしいばかりです。しかし自分が勝負できるところは登りだと思っています。自分のスペシャルな部分を磨き、活かさなければここでは通用しません。まだまだレベルアップの余地があります」
power
「やっぱりそうですよね。登りが凄まじかったと覚えております。このままどんどんレベルアップをしてスーパーノデラ君になって下さい!しかし同時にスランプとか壁は避けて通れないと思うのですが、自転車を辞めたいと思ったことは?」
野寺
「うまく行かない時はよく思います。朝起きると忘れています」
power
「はい、健忘症ですね。薬、出しときましょ。好きな言葉はありますか」
野寺
「あまり考えた事はありません」
power
「では今、考えて下さい」
野寺
「・・・・あえて挙げれば『真剣白刃取り』でしょうか?」
power
「良い言葉ですね・・・ってなんじゃそりゃー!バーテープの色は何色ですか」
野寺
「白です。があまり意味はありません」
power
「俺色に染まれ!と言うことである、と」
野寺
「あまり意味はありません」
power
「純白から徐々に野寺の色に仕上げてゆく芸術である。これこそがアートである、と。そういうことですね!」
野寺
「あまり、意味は、ありません!」
power
「・・・わかりました。では野寺さんの趣味は。ズバリ!お答え下さい」
野寺
「夜空を眺める事。何故か心が落ち着きます。自分の小ささも感じます。曇り空では効果薄ですが」
power
「凄く共感できます。私も夜空が大好きです。冴えないときや落ち込んでいるときに見ると、『これでいいのだ』と言う気にさせられてしまいます。きっとこれを読んで『野寺=ロマンチスト』と短絡的に決めつける人がおられるでしょうが、そのような人にこそ、黙って夜空を見上げて見て欲しい。黙って夕暮れを見ながら風の香りをかいで欲しい。そんなことより、今までで一番印象深かったレースは何ですか?」
野寺
「4年目のインカレです。誰が何と言おうと熱かった!負けましたが」
power
「おお!群馬ですね。確かにあれは熱かった!私も走っていました。途中で降りましたが、大学院の入試の為、練習不足だったのです」
野寺
「それは言い訳」
power
「ガ、ガーン!そんなん言わんとってー。しかしまあ、そう言われても仕方ありません。それにしても、同じレースを走っていた野寺君がここまで活躍しておられるのを見ると、嬉しくて仕方がありません。今後も怪我に気をつけて頑張って下さいね!」
野寺
「ありがとう。僕も同じレースを走った仲間が、何らかの形でこの世界に携わっている事をとても嬉しく思っています。シーズンも後半戦に入ります。期待に答えられるよう、そして自分のためにも良い結果を残せるように頑張ります」
power
「自転車の中心、ヨーロッパで益々活躍して下さいね。今日はありがとうございました!」
野寺
「こちらこそ、ありがとうございました!」


世界最高峰のレースを知る男は、自転車の過酷さとクールさを知る男であった。地道な努力しか無いと言い切る野寺氏の目を説明できる形容詞はただ一つ「クール」であると私は言い切る事を憚らない。このインタビューでツールドフランス優勝が見えたか?ガンバレー!!


power (2002/06/30)

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