Bicycle Film Festival 5 -最終章-
すべてのプログラムが終わり、ボランティアも帰り、Brendt、Nick、と僕は劇場の椅子に座って疲れと満足感を噛みしめた。
明るく白けた劇場で、先ほどまでの興奮がウソでないのを証明するのは、散らかったポップコーンとビールの空き瓶だけ。
「…掃除しなきゃな…」Brendtはまたお疲れモードに逆戻り。
「ブレント、みんなホントに満足してた。いい仕事したなぁ。」
いいよ掃除なんて。僕がやるよ。
「…楽しそうだったね。…ガールフレンドを連れてきてる奴もいたね…」
「うん。」
「…僕は何だか空っぽなんだ…」
BFFに全ての時間を割くことで、金銭的にも人間関係にも擦り切れてしまっているBrendt。
オマエは本当に偉い奴だよ。
「そうやろな。あんだけ頑張ったあとやもん。」
「…誰か女の子と話したい…」
というわけで自転車バーZeitgeistに行くことに。
ザイガイストはバーというよりキャンプ場。表から見ると普通のバーだけど、自転車を持ったままバースペースを抜けると、高い塀で囲まれた砂利びきのオープンスペースに出る。木製の大きなキャンプテーブルが並び、刺青のサイクリストや、皮ジャンのモーターサイクリストが大勢あつまっている。若いメッセンジャーも多い。なんか悪そう。なんかオシャレ。停まっている自転車もピストやロードがほとんど。BrendtはSurlyのピストなので紛れ込んでいるが、僕のサビサビのママチャリを見る目が何か冷たい。
グニィ。あれ、何か轢いたな。
“Fu**! My hamburger!!”
「ああ、これアンタの?」
あーあー、いくら皿に乗っけてるとはいえ、食べ物を通路に置くなよ。
「俺のハンバーガー!食べかけのハンバガー!」
ハンバーガーの持ち主の男はかなり酔っ払っているようだ。
「見えなかってん。誰でもこんなトコに食べ物があると思わんやろ?こっち半分はまだ食べれそうやで。」
「ハンバガー!ハンバガー!」と叫びつづけ、こちらの言うことは全く聞こえていない。まわりの人はきっと、僕が彼の愛犬のハンバーガーちゃんを轢き殺したと思っているに違いない。人や動物を絶対轢かないと決めて自転車に乗っているけど、地面に置いてあるハンバーガーまで見てなかったよ。
「わかった。僕が悪かった。同じの買ってくるからカンベンして。」
「ハンバガー!俺の大好きなハンバガー!」
愛犬を轢かれてスグに、ソックリな別の犬を連れてこられても気分が悪いかなと思いながらもキッチンに行った。
「エクスキューズミー。あのー犬を、じゃないやハンバーガーを作り直して欲しいんですが。」
「ヘイBoy、そこの黒板になんて書いてあるか読めるか?」
「キッチンClosed。そこを何とか。チップは君に直接払うよ。」
「黒板を読めよ。じゃーな。」
取り付くしまもない。ビールでカンベンしてもらおう。Brendtを放っておくのを心配しながら長い列にならんでビールを頼む。
飼い主はビールを渡すとコロッと機嫌がよくなり拍子抜けする。そんなんで大騒ぎするな。
Brendtはどこかな?あぁ一人で淋しそうに座っている。
「おまたせ。ビール買ってきたよ。」
いまにも泣きそうな眠そうな顔。
「せっかく来たんだから、女の子と話をしよう。」
「…あまりそんな気分じゃないんだけど…タクヤがどうしてもって言うんなら…」
ハイハイ。周りを見渡して女の子の多そうなテーブルを探す。発見!白人とアジア系とウーン、インド系?の女の子がグループになっている。もちろん男も3人いるのだが、別にナンパをするわけじゃないので厚かましく押しかける。
「ハイ!ここ開いてますか?」と、荷物をどけてもらったうえに席をつめてもらう。
何、あんた達?という視線を感じながら、Brendtに聞こえよがしにBFFの話をする。
変な人になっているが、ええねん、ここでは外国人やから。
「イヤー、すごかったよね、あの自転車の数、Bicycle Film Festival、略してBFFという自転車映画祭をココSFで開催したBrendt君。君は面白い人やねー。」
Brendtはかなり居心地が悪そうだ。
横の女の子をちらっと見ると、若干興味を惹かれている(ような気もする)。
「そういえばBFFのステッカーが余ってたな。カッコイイよなあのステッカー。ちょっともう一回見てみよう。」とZo-Bagからステッカーを出すと、もう皆コッチを覗きこんでいる。
「もしかして君達もBFFって行ってた?」
「なにそれ?面白そうだけど…」
バカヤロー!そんなこと言ったら、Brendtがまた落ち込むやんか。
「BFFを知らんの?君、田舎者?もしかして日本から来たの?ハッハッ、僕は日本から来たよ。」
「さっき横で聞いてたんだけど、自転車映画祭なんでしょ。」
「そうやで。このBrendtがニューヨークで始めてん。世界最大の自転車映画祭やねん。今年でエーッと、何回目やったっけBrendt?」
「5回目だよ。ハイ、Brendtと言います。よろしく。」
友人の外国人が厚かましくてすいませんねー、という顔をして挨拶している。
「ワーオ。素敵ねー。」「SFはドコでやってたの?」
みんなでビールをピッチャーで頼んで、もう完全に友達。あー良かったね、Brendt。
ピッチャー3杯目。元気になったBrendtと僕はついつい自転車の話ではずんでしまう。
「やっぱりさ、自転車が産み出す文化というかライフスタイルってさ、民主主義と相性がいいんだよ。孤独で自由な乗り物で、だから逆に他人も認められるって言うかさぁ。」
ハッと気がつくと女の子達のグループと僕達の間に見えない壁が…
10分後、Brendtと僕はまた二人っきり。
何、あんた達 →変な奴 →ちょっと面白そう →面白―い →でもやっぱり変 →なんか私達と違う。と、こういうことでした。
めげずに別のテーブルに行く。あまり自転車の話はしない方向で、と決めておく。
「ここ開いてますか?ワー、Coolなメッセンジャーバッグだね。ちょっとどけてね。」
しかしというか、やはりというか20分で全く同じ展開で二人っきり。
「…BFFって、僕が思うほど知ってもらってないのかな…」
もうこうなったら男でもいいや。話し相手を見つけよう。もしかしたらBrendtはそういう趣味があるかも知れないし。そうじゃなくても、これからって可能性もあるよな。
次のテーブルでは30秒で全員いなくなってしまう。
酔っているせいもあって、腹が立ってきた。おい誰か仲間になって話してくれよ。
こっちから押しかけるから良くないのかもな。
「おーい!ちょっと皆聞いてくれ!おーい注目!」
テーブルの上に立って大声をあげる。やけくそだ。
「皆!Bicycle Film Festival、略してBFFって知ってるかい!?」
失笑しながらもパラパラと手が挙がる。なーんや知ってるやん。顔を見渡すとほとんど全員知っている感じ。
「BFFに行った人はいるかい!?」
さっきより少ないが何人かが手を挙げる。恥ずかしくて、もしくは関わらないように手を挙げない人も数えれば、かなりいると見た。
「ここにいるBrendtがBFFをやってんねん!どう、一緒に飲みたくないかい?」
しーん。と一瞬の間があって、皆それぞれのグループの会話に戻ってしまう。
テーブルの上に立ってる僕はどうなんねん???
久しぶりに切れてしまった。
「こら!!! オマエらなぁ、私はクールなサイクリストですって顔をして、しょうもないグループで固まりやがって。そういうのはなスノッブって言うねんぞ。おまえらChauvinistか?このBrendtが自分の時間を全部使ってBFFをやって一番楽しんだのはオマエらやろう。なんで一緒に飲めへんねん!!!」
下を見ると「もういいから、もういいから。降りろよ。」とBrendtが本当に困っている。
完全にここに来た目的と逆効果である。酔っ払いの変な外人にショービニスト扱いをされて一緒に飲もうなんて人がいる訳はない。(Chauvinistというのは排他的で違う意見に耳を貸さない、認めないという人のことだ。かなりキツイ言葉だ。)
SanFranciscoには変人が大勢いるので、特にいたたまれないムードにもならなかったのだけど、大勢の楽しそうな人たちの中で、二人だけで飲んでも面白くないし逆に淋しい。
Missionエリアの中心に戻り、Burritoを食べにレストランに入った。
Zeitgeistでのことは面白い話ということにして、笑い飛ばした。
「…なあ、BFFには大勢の人が来てたよな…」
「うん。皆、楽しんで帰ってたよ。あんなに大勢来てたのは驚いたよ。」
「…あれだけ大勢の人が来たって、映画祭としては一番小さい部類に入るんだ。でもな、来る人が本当に楽しめる映画祭としては、世界でもトップクラスだと思うよ…」
「Brendt、『七人の侍』って見た?ラストのセリフ、『勝ったのはあの百姓達だ。俺達ではない。』あれって英語でどう言ってた?」
「ハハハ。僕達がSeven-Samuraisってか?面白いこと言うね。」
翌日、港の道路をハイジャックしてやった、BFF主催アレーキャット
の話。そこでEric-Zoに僕のZo-Bag
を直してもらった話。潰れかけた映画館を買い取って再建した親子の話。Kyoto LOCOがきっかけでパンクバンドを始めたTimmyの話。まだまだ話は尽きないのだけど、すでに長くなりすぎたので、またの機会に。
日本に立つ日の朝、やっとコンテンツの入ったDVDを渡してくれた。「35mmとか16mmもあるから持って帰るのは無理だよ。」なんて言ってたのはどうなったんだ?
「…日本の観客ってどんなんだろう?楽しんでくれるだろうか?…」
「まぁSFみたいに大騒ぎはしないと思うけどね。もしかしたら大騒ぎ系映画っていうジャンルを日本で確立できるかもね。」
「…大勢来てくれると嬉しいな…」
帰りのフライトでは、疲れきって朦朧とする頭で、雲の水平線を見ながら考え事をした。
取り留めのない思考の断片や、SFでの記憶が次々浮かんできて、旅の終わりを感じた。
成田から横浜に行き、簡単なミーティングのあと、高速バスのチケットをヤナケンに奢ってもらい、早朝の京都に帰ってきた。数時間もすれば、またメッセンジャーの仕事でこの街を走っている。
京都駅のバスターミナルに向かう車中から、鴨川沿いを走るサイクリストを見た。
「京都でも自転車映画祭をやりたいな。」と思った。
完。
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